ブドウの香りに満たされて…3
例えば、八月の中ごろにキャンベル・アーリーがおいしくなる土地だったら、マスカット・べーリーAの成熟期は九月中ごろとなる。
十分熟れた果房の甘みは巨峰の標準品並み(糖用屈折計の示度で一七~一八)。
それもそのはず、花粉親は英国生まれの高級品種「マスカット・ハンブルグ」。
昭和の初め、川上善兵衛が育成した国産品種である。
現在、山形県から九州に至る諸県で栽培されている。
ところがこの品種も、おいしくなる前のものが店頭に出ていることが多い。
だから、酸っばくてまずい黒ブドウだと思われている。
野菜 種などの未熟品を食べるのは好き勝手だが、この品種がふびんでならない。
秋の彼岸から十月いっぱい、甲府盆地は「甲州」の熟れるころである。
甲州のあの赤い果皮の色を、文字や口で説明するのはなかなかむずかしい。
淡紫紅色、赤紫色、「紫褐色を帯ぶる淡紅色」(『甲州勝沼葡萄沿革』勝沼町農会・昭一七)ほかいろいろが使われている。